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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)586号 判決 1968年11月21日

上告人

服部正太郎

ほか一名

代理人

下山昊

下山量平

被上告人

白綾基之

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人下山昊、同下山量平の上告理由(1)について。

上告人らの債権はいずれもその物自体を目的とする債権がその態様を変じたものでありこのような債権はその物に関し生じた債権とはいえない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

同(2)について。

原判決が適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が背信的悪意者にあたらず、被上告人の本件明渡請求が権利の濫用でない旨の原審の判断は是認できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

同(3)について。

本件家屋は被上告人が訴外株式会社神戸商会から買つたもので、被上告人の所有であり、上告人正太郎と被上告人との共有でない旨の原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)

〔参考・原審判決理由〕

一、原判決添付目録記載の家屋は、控訴人正太郎所有であつたが、昭和三三年九月二六日訴外株式会社神戸商会によつて競落され、同三七年三月一四日所有権移転登記がなされ、更に同三八年一一月二〇日売買を原因として被控訴人に所有権移転登記がなされていることは当事間に争がない。

二、<証拠>を綜合すれば、訴外神戸商会が本件家屋を競落した後之が明渡を求めるうち、同三七年五月頃控訴人正太郎がその子服部正を代理人とし神戸商会との間に、本件家屋を代金一五〇万円で控訴人正太郎が買戻す契約が成立し、右買戻代金に充てるべく同年五月四日頃本件家屋の存する服部ヨシエ所有の神戸市須磨区明神町二丁目一二番地の二、宅地九七坪一合二勺中本件建物敷地部分を除く実測五五坪を代金二七五万円で被控訴人に売渡し、被控訴人はその代金支払を了したこと、その後同年九月初旬頃に至つて右服部正は控訴人正太郎及び服部ヨシ江の代理人と称し、本件家屋につき神戸商会に買戻代金の完済がなされていないのに、之を秘してその所有権が控訴人正太郎に復帰した如く装つて、本件家屋及び前記被控訴人が買受けた以外の敷地部分四二坪一合二勺の買受方を被控訴人に求めたため、被控訴人も承諾しその頃代金二三〇万円で買受ける旨を約し、被控訴人は略々代金同額の金員を右服部正に交付したこと、しかるに本件家屋の所有権が神戸商会より控訴人正太郎に復帰したものでなく、前記買戻代金のうち事実上服部正を通じ神戸商会に入金されたものは七〇万円に過ぎないことが判明したこと、神戸商会は右の事情から残金として被控訴人が七〇万円を支払うときは被控訴人に所有権移転登記をすることを約したので、被控訴人も已むなく之を了承し、同三八年一月五日七〇万円を支払つて神戸商会より本件家屋を買受け所有権移転登記を了したこと、が認められる。<反証排斥>

右の事実からすれば控訴人等主張の神戸商会、控訴人正太郎間の売買(買戻)と被控訴人主張の神戸商会、被控訴人間の売買は二重売買の関係にあり、本件家屋の所有権移転登記を経由しない被控訴人正太郎は、仮令本件買戻に関与した平山輝雄が神戸商会の代理人であり、同人に対し買戻代金を交付した事実があつたとしても、右買戻による所有権取得を以て被控訴人に対抗することができないことは自明である。

三、控訴人等は、被控訴人は背信的悪意者にあたるから、被控訴人は控訴人正太郎に対し登記の欠缺を主張することができないし、かかる被控訴人が控訴人に対し本件家屋の明渡を求めるのは権利濫用であると主張するが、被控訴人が本件家屋の所有権移転登記をなすに至つた経緯は前認定の通りであつて、このような事情下でなされた神戸商会、被控訴人間の売買は、自由競争の許容し得る範囲内の取引であると認めるのが相当であり、被控訴人は登記の欠缺を主張することができない所謂背信的悪意者には該当しないし、被控訴人の所有権取得が控訴人正太郎に対抗し得る以上、所有権に基き本件家屋の明渡を求めることは何等権利濫用となるものではない。

四、控訴人等は、本件家屋は控訴人正太郎、被控訴人の共有に属するから明渡請求は失当であると主張するが、前認定の事実からして、本件家屋が共有となるいわれはないからその主張は到底採用できない。

五、控訴人等は留置権を主張するが、その主張の債権はいずれも其物自体を目的とする債権がその態様を変じたものであり、かかる債権は其物に関し生じた債権とはいい得ないから留置権が成立する余地はなく、その主張は失当というほかはない。

六、してみれば控訴人等の抗弁は全て理由なく、控訴人等が本件家屋を占有することは当事者間に争がないから、控訴人等は本件家屋明渡の義務があり、且右占有は登記の日である昭和三八年一一月二〇日当時既に存していたこと並びに本件家屋の地代家賃統制令による昭和三八年度の統制賃料が月、三、六二七円であることは、弁論の全趣旨により控訴人等において明らかに争わないものと認められるから、所有権移転登記の日の翌日より明渡済に至る迄統制賃料の範囲内である月三、四九二円の賃料相当損害金を支払う義務がある。

七、仍て、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であるから、本件控訴は之を棄却し、控訴費用負担については民事訴訟法第九五条第八九条第九三条を適用して主文の通り判決する。(大阪高等裁判所第七民事部)

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